電力は以前は、大手電力会社の独占でしたが最近では電力自由化の動きが加速しています。その事自体は料金や利便性が上がる面で良いのですが電力自由化の課題も最近になって、大きく浮かび上がってくる事になりました。
設備の確実な保守点検等に投資が出来なくなってしまえば、全域停電ことブラックアウトの発生も頻発する事になります。今回はそんな電力自由化のポイントを、現状とこれからの展望等を踏まえて3点程述べていく事とします。
電力小売りの自由化から3年、更にそこにガスの自由化も加わる事となり、顧客獲得競争は激化の一途を辿っています。平成28年4月以降は特にその流れが顕著であり、新電力への契約の切り替え以外にも同じ電力会社でよりユーザーにメリットがあるプランに変えるという動きも増加傾向にあります。2018年度11月の時点で切り換え率は都市部で22%超えを記録するに至りました。
この時期の切り換え率を電力会社別で見ると、中部電力が30.2%で関西電力が28.2%、東京電力が24.3%を記録しています。この大きい要因としては、大手ガス会社が電力とガスのセット販売をする様になり、総額が従来よりも5%以上安くなった事等が挙げられます。
ただし、電力自由化によって幾つか課題も浮き彫りとなってきました。特に広域停電ことブラックアウトの問題が顕著です。例えば2018年9月に北海道の苫東厚真発電所が地震で被災した結果、北海道全域でブラックアウトが発生する事となりました。その後、北電は設備投資を強化し再発防止対策としています。
この事例は多くの示唆に満ちており今後も電力自由化の勢いが強まり、切り換え率が流動化していけば、電力会社は採算が取れない送電網や発電所を維持する理由が無くなります。実際、老朽火力発電所の廃止も相次いでおり、現在は発電コストを電気料金に上乗せする総括原価も廃止されていますので、大手電力会社であっても利益を確保する為に多くの見直しを課題として迫られています。つまり、電力会社は採算を取る事と、ブラックアウト防止の為の設備投資の2つを両立しなければいけないという事です。
本来自由化と安定供給は相反する物ですが、電力に至っては社会の根幹を成す部分であり矛盾を肯定してしまうとブラックアウトが頻発する事になって、利便性が激減する事となります。その点を考慮して言うならば自由化しつつも、電力供給その物は安定する様にしないといけません。そのカギの1つが2020年4月から開始される事となる発送電分離です。
発送電分離とは、大手電力会社が有していた送配電部門を分社化して新電力が使いやすくする事であり、送電網の自由化でもあります。これで、それぞれのパートの管理を別会社がやる様な体制が整えば問題はクリア出来るという事です。
ただし、この発送電分離にも課題があり、別会社化を進めるという事は非常時に違う会社同士が連携して仕事を行わなければならない事態が発生する事を意味します。管理の手間を考えた場合は、間違いなく1つの会社でやった方が効率が良いですので、非常対応時にどうするかを真剣に検討しないといけません。
政府も幾つかの課題を軽視しているわけではなく、発電能力を売買する容量市場の前倒しの創設を決定し、火力発電の維持を促す事にも努めました。容量市場が活性化すれば、それぞれの会社の規模にあった電力事業をそれぞれが行う事となり、保守点検や非常時の対応もしやすくなるという考えもありましたが、容量市場の創設もそれぞれの問題を完全にカバーするには至っていません。
送電網の自由化で、多くの新規企業が参入し利便性の向上も見込まれるかとも思われましたが、今の所、送電網の利用に積極的なのは、その送電網の従来の保有者である大手電力会社の関連会社が中核を占める事になっています。情報や意思統一が簡単か否かという点で見た場合には、やはり新規企業よりも系列会社の方がやりやすいという事が大きいです。こういった点を考えた場合には、電力自由化はまだ道半ばといった所です。